TCH(上下歯列接触癖)って何?
聞きなれない言葉かもしれませんが、TCH(日本語では上下歯列接触癖と呼びます)は多くの患者さんが悩まされている痛みの原因です。
TCHは「Tooth Contacting Habit」の略で、安静にしているときでも上下の歯がどこか接触している状態を指します。
実は、正しい状態は上下の歯が1~3mmほど離れています。
今この文章を読んでくださっているあなた、今、歯と歯があたっていませんか?その状態をTCHと呼びます。
歯と歯が接触している時間は24時間の間でおよそ1時間です。
1時間を超える時間、常に歯と歯が接触しているということは、歯を接触させる筋肉、咬筋と側頭筋という筋肉が常に緊張している状態です。長くなればなるほど、筋肉疲労は蓄積するので様々な不快症状があらわれます。
筋肉はリラックスしているときは緩んでいないといけないのに、常に緊張状態にある、それがTCHなのです。
TCHの引き起こす症状
TCHは以下のような症状引き起こされます。
歯の痛み
レントゲンで虫歯や歯周病がないのに、冷たいものがやたらしみたり、鈍い痛みが夕方以降にでてくるといった歯の痛みがTCHの症状です。
これは歯に持続的に力がかかりすぎていることで痛みがでたり、歯の中の神経が過敏になってしみるといった症状がでます。レントゲンなどによる精密な検査をしないとわかりません。
しみるからといった安易に歯の神経の処置をすると、かえって歯の寿命が短くなるため、治療方針は厳密におこなわないといけません。
顎の痛み
顎の痛みがでる顎関節症は、様々な要因で発症します。
TCHがあると、咬む筋肉が収縮し続けているので、筋肉や顎の関節に痛みがでることがあります。
夜中に歯ぎしりをしている方は朝に顎の痛みがでますが、TCHの場合は、夕方にかけて痛みが強くなってくる傾向があります。
歯の動揺
常に咬む力が歯にかかっているため、歯周病によって骨が吸収されている部分は、歯がグラグラするといった症状がでます。歯周病がある方は、歯を支える骨全体が弱くなっているので、弱くなっているところに、力が加わることで、歯のぐらつき(動揺)が悪化することがあります。歯が動揺することで、歯茎の炎症も悪化します。
顔の筋肉のこわばり
継続的に歯と歯が接触しているので咬む筋肉が常に動いている状態です。そのため、常に筋肉が収縮しているので、肩こりや腰痛のように顔の筋肉もコリが生じて顔面がこわばってくるような症状がでます。
舌の痛み
弱い力で歯と歯が接触しているので、舌が常に歯と接触し続けている状態になります。本来は上の前歯の裏側(切歯乳頭)にあたっているのが正常な舌の位置ですが、TCHがあると、舌の位置が舌が奥歯や前歯におしつけられているので、舌に常に刺激が加わり、痛みがでることがあります。
入れ歯の痛み
入れ歯を入れている方の場合、入れ歯をいれていると常に痛みがでるという症状がでることがあります。入れ歯は食事以外のときは接触しないので痛みがでませんが、TCHがあると、常に入れ歯が噛み合っている状態のため、入れ歯をささえている粘膜に傷ができたり、歯茎の部分に入れ歯が食い込んで、入れ歯の跡がくっきりと残ってしまうといった症状がでます。食い込んでいる為、入れ歯が常に痛くなります。
噛み合わせへの違和感
噛み合わせに問題がなくても、常に歯が浮いているような気がする、片方だけ歯が当たっているような気がするといった噛み合わせへの違和感を訴えることがあります。
TCHでは常に歯と歯が接触しているため、歯と骨をつないでいる歯根膜という咬む力を察知する膜が過敏になっていることがあります。歯根膜があることで、やわらかい食べ物、硬い食べ物と違いがわかり食べ物によって、咬む力を調整することができます。
しかしTCHの方の場合は、この咬むためのセンサーが過敏となってしまい、常に噛み合わせに違和感を感じるようになってしまいます。
歯ぎしりとTCHって一緒??
歯ぎしりがTCHって一緒でしょ?と考えている患者様も多いかもしれません。
歯科医師の中でも、TCH=歯ぎしりと考えている人も多くあり、歯科医師のTCHの考え方によって治療方針は大きく変わります。
TCHは歯ぎしりと同一ではないものの、お互いに相関関係があるものがあります。
TCHも歯ぎしりもクセ(習癖)である点では同じですが、一番の違いは「歯ぎしりは寝ているときに行なっていることが多い」のに対し、「TCHは起きているときでも無意識下に弱い力で持続的に行なっている」ということです。
歯ぎしりは寝ている時に歯に強い負担がかかっている状態です。
さらに歯ぎしりと同じように捉えられてしまうくいしばりですが、くいしばりは力仕事やスポーツなど、力を出す時にせいぜい2〜5分程度、歯と歯が強く接触している状態です。
一方、TCHというのは、弱い力で継続的に、ずっと歯と歯が接触している状態を意味します。
そのため、ただマウスピースを入れるだけの治療では改善しません。
後述するTCHの治療(治療のところで後述)の1つである、正しい舌の位置への改善も必要です。
あなたはTCH?セルフチェック
ではTCHではないかセルフチェックを行ってみましょう。
目をつぶって、唇を閉じてください。以下の症状はありませんか?
歯と歯があたっている
目をつぶって唇と閉じているときは、歯と歯は接触していませんので、歯と歯が接触しているということは噛むとき以外にも歯が接触している可能性が非常に高いです
舌の位置が上の前歯の裏側以外の位置にある
舌の正しい位置は上の前歯の裏側(切歯乳頭)です。それ以外の場所にある場合は、舌が正しい位置にないため、TCHを行っている可能性が高いです。
次に口の中を、鏡を使って、以下のような症状がないかチェックしてください。
舌や頬に歯の跡がついている
歯と歯が触れ合っているため、お口の中の空間が狭くなってしまい、常に歯に舌や頬があたってしまっている状態になるます。そうすると、舌のふちや頬にギザギザの歯のあとがついたりします。
骨の隆起がある
TCHがある方の場合、上顎や下顎の真ん中に骨が隆起してでっぱったってきます。これは持続的に歯に負担がかかり、歯を支える骨にも常に力がかかっているので、骨が刺激によって、作られるからです。この骨の隆起を骨隆起と呼びます。骨のため、触ると硬いです。
以上が代表的なTCHのセルフチェックです。1つでも当てはまったら、専門の歯科医院を受診して相談することをおすすめします。
TCHの治療について
TCHは無意識のうちに歯と歯が接触しています。治療については主に以下の方法があります。
歯の位置の意識
無意識のうちに歯と歯が接触しているので、意識して歯と歯が接触していたら、歯を離すように意識する方法です。ポストイット法、リマインダー法があります。ポストイット法はデスクワークの方に特におすすめです。ポストイット(付箋)を見えるところに貼って歯と歯が接触していないか、意識します。ポストイットには、歯を離す!と書いておきましょう。見えるところでいいので、冷蔵庫やトイレに貼る方もいます。
リマインダー法は、いつ、歯と歯が接触しているか自分の傾向を把握して無意識を認知する方法です。デスクワークの方は仕事中であれば、仕事中に意識して歯と歯が接触していないかを確認し、歯を離すようにします。家事などの作業をしているときにTCHを行っているのであれば、家事の最中に意識して歯を離すようにします。
舌の位置の改善
TCHは意識して歯と歯を離すだけでは、不快症状の改善にはなりません。
正しい舌の位置に飲み込めるようになることで、TCHの改善につながります。
例えば丸呑みしているような方では、正しい飲み込み(嚥下)ができていないので、舌の位置が上顎につかず、TCHを悪化させます。正しい嚥下の改善も治療として行っていきます。
ノエルデンタルクリニックでは、虫歯でも歯周病でもない、でも歯が痛い、と訴える患者様にTCHではないか診断し、TCH の場合、治療を行い、患者様の痛み、日常生活への不快感を改善していきます。意識することから始めるので一人ではなかなかTCHを改善していくことは難しいです。
ですが、一緒に治療していくことで、少しずつ改善していくことができます。
歯や歯茎が痛いのに、問題ない、経過をみましょう、と言われた経験のある方はお気軽にご相談ください。